2008年9月27日

現代口語演劇をめぐる座談会−多田淳之介×松井周×吉田小夏

左から松井周、吉田小夏、多田淳之介

現代口語演劇を提唱した平田オリザと青年団。そこには演劇界注目の若手演出家が集まっています。
今回その中から、青年団に俳優として所属するサンプル主宰・松井周さん、青年団演出部所属の東京デスロック主宰・多田淳之介さん、そして青年団演出部と青年団リンクに所属する青☆組主宰・吉田小夏さんに、現代口語演劇について語っていただきました。

■現代口語演劇、イコール青年団の作品だと思いますが、皆さんの現代口語演劇との最初の出会いは?
松井 役者として青年団のオーディションを受ける条件として、青年団の作品を見ていることというのがありましたので、見ました。その頃は、現代口語演劇って今ほど一般的ではなくて、どちらかというと「静かな演劇」という言葉でくくられていた。岩松了さんや宮沢章夫さんとか平田さんがいて。当時の青年団でいうと相づちが多かったり、一つずつのセリフがすごく短いという感覚はなんとなく面白そうだなと思いましたが、現代口語演劇と意識したことはなかったですね。あの言葉自体は平田さんが使い出して、多分ある程度強引に定着させようという戦略があって、成功しているところがあると思うんですけど。青年団に入る前も大学で演劇はやってましたよ。先輩がアングラが好きだったので、白塗りして寺山修司や唐十郎の芝居をやって(笑)。そこにちょっと飽きてきたじゃないけど、ドラマチックなことが起こりまくる演劇をやって いたので、青年団を観たときに何も事件が起こるわけじゃないという、そのギャップに惹かれたというのはありますね。

■多田さんは青年団演出部の前には動物電気に役者でいたんですよね?
多田 アンチ現代口語演劇のところにいましたね(笑)。もともとコントとかやってて、全然現代口語演劇じゃなかったんです。動物電気には猫のホテルとかTHE SHAMPOO HATとか仲のいい劇団があって、僕の感覚でいうと、動物電気→猫のホテル→THE SHAMPOO HAT→青年団と行き着いた、みたいな道のりで、ちょっとずつ観ていって、「静かな演劇」と呼ばれているものをひょっとして自分が好きなんじゃないかという疑惑が生まれてきて(笑)。じゃあ、青年団とやらを観てやろうとある日思って『上野動物園再々々襲撃』の初演を観たら、すごく面白くて。そのタイミングと俺が東京デスロックを立ち上げるのが近くて。当時そこまで現代口語演劇をやるんだっていう劇団が今よりも全然少なくて、現代口語演劇というシステムを使って、もっと音楽をガンガンにかけたり、照明をビカビカやったりっていう劇団を作りたいねっていうことで東京デスロックを始めたんです。
吉田 私は現代口語演劇っていうことについては、この中で一番無自覚だったと思うんですけど。東京の伯母から知り合いが演劇に出ているって言われて、初めてザ・スズナリに行ったんですね。それが17歳の頃で。湘南地方の素朴な女子高生で、宝塚を愛する演劇部員でした。で、初小劇場でチラシの束をもらって、「これは何だ!」って(笑)。ジャケ買いのようにチラシをババって分けていって、「有名どころだ!」って青年座と思って青年団のチラシを手に取って(笑)。それで観に行ったのが『東京ノート』の初演だったんです。初めに「しまった、もう始まってた!」と開場中の芝居を観てあせり、芝居が始まってからもなんだか、掴めきれないまま終わってしまったんですが、帰りの駅のホームで、普通の人の会話が妙にキラキラ耳に流れ込んできて、日常の見え方が急に変わって......。それで、「何だ、この劇団は!」と思って。チラシ束に入ってたオーディション告知を見て、オリザさんの作・演出の『転校生』というプロデュース公演に出ました。それが、現代口語演劇との出会いですね。それが体感的な出会いなんですが、方法論として自覚したのは、戯曲を書くようになってからです。初めて自分で戯曲を書いたときに、コンクールで評した人に「平田オリザの本*を読むとこういう戯曲を書く」と言われて。当時は実はまだオリザさんの本は全然読んだことがなくて、「無自覚に似ているのはやばいかも。ちゃんと知ろう」と思って青年団演出部に入りました。(*注=「演劇入門」などの本)

■俳優として舞台に立つときに、現代口語演劇は、それまでやっていた演技と比べて違和感があったり、逆にしっくりなじんだりとか、違いはありましたか?
松井 お客さんに対して正対するとか、滑舌よくしゃべる、姿勢をきちんと見せるっていうのは、俳優の欲求としては正しいと思っているんですけど、逆にそれを何かのぞかれるように見て欲しいっていう意識を青年団に入って感じましたね。お客さんから見られているっていう状態を意識しないように作る、ある種倒錯した欲望だと思うんです、のぞき見されたいっていう。
多田 一般的には普通にやるというか、日常的なことを舞台でやるっていうことなんだけど、でも日常的なことを舞台上でやるってすごい特殊なことで。演劇って舞台という特殊な場所で特殊なことをやるのがまっとうで。「現代口語演劇は普通」って言われるけど、すごい異常なことをやっている感じがありますね、俳優としてやる場合は。普通の前向いて大声出す演劇やる場合は、なんかパフォーマー的感じがしているんですけど、現代口語演劇をやる場合は、職人的に歯車の一つになって「キッチリ仕事をこなすぜ」みたいな感じでやってます。
吉田 「"素"じゃないんだ」っていうのを実感したのは印象的でしたね。普段自覚しないような意識レベルのものを細かく自覚する、再現する、っていう事の驚きは大きかった。『転校生』のとき、オリザさんから「白鳥みたいなものでさ、スーっと水面を進んでいるようで、見えない水の中ではめちゃめちゃバタ足してる。そういう覚悟でやってください」って言われて。見てる人には力抜いてやっているように見えるかもしれないけど、脳の中ではシナプスがぐわぁーって全速力で伸びてる状態なんだよなぁと、今も改めて思ったり。

trio1.jpg

松井 ひとつ思うのは、同世代のチェルフィッチュやポツドールなどの稽古場に行くと、その細かさの解像度っていうのは、ちょっと信じられないくらいの細かさを追求しているんじゃないかなあと思うんですね。もちろんオリザさんもすごい解像度があるんですけど。だから僕らはそういうのはオリザさんだけじゃなく、外側からフィードバックしているのもあるかな。
多田 この間、オリザさんの『眠れない夜なんてない』の稽古を見に行って、普通に立ち上がって振り向くタイミングを稽古で考えたりしているわけです、細かく。それによってそのふたりの関係が変わって見えたりするんですよね。青年団の作り方だとそういう見え方をする。東京デスロックの作り方だと「イェーイッ!」と叫ぶタイミングを5秒遅らせると、その後の疲れがもっと疲れて見える、そういう効果の出し方をする。細かく決めるっていうのは、演出家が何の効果を目指して何をやるかっていうことだと思う。多分、はたから見ると「細けーなー」っていう印象を相当受ける。チェルフィッチュの稽古を見たときも面白いくらい細かくて。
松井 ポツドールやチェルフィッチュも現代口語演劇っていうくくりではない、何か違うくくり方をそろそろしないと、捉えきれなくなってきていると思うんですよね。じゃあ何かっていったら、それは僕自身はチェルフィッチュやポツドールのことは分からないですけど、コミュニケーションって言ったらいいのかな。例えばチェルフィッチュは口語ではあるけれどダンスの要素があったり、現代口語演劇からはみ出す要素があると思うんです。僕自身は現代口語演劇が流行っているっていう感じに対して恐怖を感じますね。
吉田 流行りというか、そもそも括ることに意義があるのかなぁ? と思う。ある意味では既にオーソドックスというか、一つの手段としてこういう発想がある、くらいに落ち着いている気もするけど。
多田 さっき松井さんが言ったように、基本的にオリザさんが自分たちのスタイルを対外的にアピールするために使った言葉が現代口語演劇で、そうなってくると今僕たちみたいな人たちがやっていることにあてはめようとすると、特に青年団を知っている人からすると違和感がある。
吉田 多分、現代口語演劇の戯曲のイメージが昔は強くて、相づちが多いとかセリフが短いとか。でも今はどちらかというと、演出面でのエッセンス的なものをみんなが応用して、どんどん広げていっているんじゃないかって気がするんですけど。
多田 演出も戯曲も当時は結構衝撃的だったんですよね、恐らく。まあ、今、戯曲も変わってきてるし、演出の仕方も色々なことが出てきている。色んな方向に進んでいるから。そうなってくるとこの人達とこの人達は遠すぎるし、とか(笑)。
松井 僕はその個性の違いでこの3人で喧嘩する感覚はいいって思うんですよね。つまり青年団が現代口語演劇の巣窟じゃないですけど、ひとつのオリザさんの作った言葉に乗っかってある種の閉じた体系を作っている感覚があるとしたら、なんか恐いな。でも青年団ってそういう閉じているファミリー的に思われることに対して反発があるんじゃないかと思うんです。もちろん色んな恩恵は受けていて、それに対しての感謝と同時に外側に視線を向けて自分たちのポジションをなんとか演劇界の中できちんと作らなければいけないっていう発想が多分みんなある。そういう意識でいるっていうことは知って欲しいですよね。

■青年団リンクってパッと聞くとみんな同じ人たち、同じ系統のグループみたいに一般の演劇ファンには思えますが。
松井 それはありますね。
多田 僕と吉田さんが今年5年目ですが、僕らより先に入っている劇団員で演出部っていうのは3人しかいなくて、それまでアトリエ春風舎もなかったんで、アゴラ劇場で自主企画を細々とやっていて。
吉田 今はもうハイバイの岩井秀人さんのような超即戦力の人しか入ってこない。自分たちの頃は、ここで何かを色々やってみまして、みたいな未知数の感じがしたんだけど。
多田 それはね、我々が頑張ったからだよ(笑)。青年団に入るとオイシイってことを才能ある人達がやっと気づいて、入ってくれるようになったんだよ。
吉田 なんてポジティブな!(笑)。いいね、それ。
松井 オリザさんが劇場主体の演劇活動を目指しているっていうことがあると思うんですよ。そのために今は劇団っていう形だけど、そこに若い人たちの演出部っていうものを作ってアゴラや春風舎で公演する。そこのレパートリーに色んなものが入ってくる。それがたまたま青年団にいるっていう。この劇場に行けばこの人達のいくつかのレパートリーが観られますっていう状態のモデルタイプっていうんですかね、ヨーロッパ型の。それを目指しているっていう感覚はすごいあると思う。その中でみんながそれぞれバラバラのことをやるっていうのは僕は面白いと思うし、そういう意味では青年団にいるっていうことはいいと思う。アゴラでよくやるとか春風舎でよくやる劇団って思われてもそれは面白いと思うんですよね。
多田 確かにそうですね。アゴラに所属する劇団という。
松井 そうそう、アゴラ所属の劇団がいくつかあるっていう形だと分かりやすいというか、それぞれ内容はバラバラでもおかしくない。
多田 まあ、今は松井さんと俺は青年団リンクから独立していますし、東京デスロックなのに今年からは埼玉県富士見市民文化会館キラリ☆ふじみのフランチャイズ劇団になりましたし。青年団リンクからキラリンク(笑)。
吉田 それ聞いたときちょっと面白いって思った(笑)。でもホント、拠点があるのは素晴らしいことだしね。拠点があるのがいかに大事かっていうことについては、青年団演出部の面々も、みんな敏感だと思います。ちょっと無理にまとめようとしていますが(笑)。
(構成・文責=柾木、撮影=鶴野)


PROFILE
多田淳之介(ただ じゅんのすけ)
tada.jpg1976年生まれ。99年から2006年まで動物電気に俳優として所属するかたわら、01年に夏目慎也、石渕貴士と東京デスロックを旗揚げ。また03年より青年団演出部に所属し、劇場には何があるのか、演劇とは何か、演劇は本当に面白いのか、その答えになりうる作品を生み続けるべく活動している。
【9月以降の予定】 ●9月5日(金)〜28日(日)『こまばアゴラ劇場国際演劇月間−キスは何回?−』フェスティバルディレクター、●9月12日(金)〜 23日(火・祝)東京デスロック公演REBIRTH#2『演劇LOVE2008 〜愛の行方3本立て〜』、●11月多田淳之介+フランケンズ、●12月27日(土)〜 1月5日(月)東京デスロック公演を予定。
WEB:http://deathlock.specters.net

松井 周(まつい しゅう)
matsui.jpg1972年生まれ。96年青年団に俳優として入団。その後、劇作家・演出家としても活動をはじめ、処女作『通過』、2作目『ワールドプレミア』が日本劇作家協会新人戯曲賞入賞。2007年自らのユニット「サンプル」を立ち上げ、『シフト』、『カロリーの消費』を発表。演劇のリアリズムを問い直し鋭くえぐる手つきは、「強烈な同時代性」をもつと評される。
【9月以降の予定】 ●09年1月サンプル新作公演(アゴラ劇場)、その後3月、5月、11月にも公演を予定。
WEB:http://www.samplenet.org

吉田小夏(よしだ こなつ)
yoshida.jpg1976年生まれ。95年青山演劇フェスティバル『転校生』(平田オリザ・作/演出)で初舞台を踏む。2001年桐朋学園大学演劇科の卒業生を母体に青☆組を旗揚げ。03年青年団演出部入団。『うちのだりあの咲いた日に』『時計屋の恋』『おやすみ、枇杷の木』の各作品で、日本劇作家協会新人戯曲賞入賞。瑞々しく繊細な対話劇で定評がある。終わりない日常を鮮やかに切りとり、緻密なプロットによる戯曲と糸を紡ぐように丁寧な演出で、人生の儚さや人間の逞しさを、そっと描き続けている。
【9月以降の予定】 ●12月17日(水)〜23日(火)青☆組新作公演(アトリエ春風舎)、09年3月Mrs. Fictions主催『15minutes made vol.5』参加。
WEB:www.aogumi.org

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